第5回分子ロボット倫理研究会(2018年1月19日,JR博多シティ会議室)
投稿日:2017/12/21
第5回JST分子ロボット倫理研究会開催のお知らせ
共催 SICE分子ロボティクス研究会
「分子ロボット制御理論の最新の話題と分子ロボット原則に関する意見交換」
開催期日 2018年1月19日(金)13:00- ・20日(土)9:00 – 16:00
開催場所 JR博多シティ会議室 9F中会議室
世話人 中茎隆(九工大)・塩塚政孝(九大)・小長谷明彦(東工大)
参加費 無料
関係サイト
・計測自動制御学会調査研究会「分子ロボティクス研究会」
・JST「人と情報のエコシステム」公式サイト(HITE)
・分子ロボットELSI研究とリアルタイム技術アセスメント研究の共創
・情報技術・分子ロボティクスを対象とした議題共創のためのリアルタイム・テクノロジーアセスメントの構築
・インタビュー「開発しながら協議する、生体分子ロボット」
開催趣旨
新学術領域研究分子ロボティクス(H24-H28)において,生体分子・材料を用いて創るロボット(分子ロボット)の研究が活発に行われてきました。
分子ロボットは,センサ,制御系,アクチュエータなどのメカトロニクス5要素を有する工学的なロボットの側面を持つ一方で,生物の細胞システムとの類似点も必然的に多い。
本研究会では,これまであまり接点のなかった「分子ロボット分野」と「システムバイオロジー分野」の研究者にお集まり頂き,活発な意見交換を行い,双方の研究分野のさらなる活性化への一助を目指すものである。
分子ロボットの研究が本格的に進む中で,分子ロボットの倫理についても真摯に取り組む必要性が高まっている,あるいは,そういった段階に至っている。
今回は,JST「分子ロボット倫理研究会」と共催することで,分子ロボット原則に関する意見交換も合わせて行い,分子ロボット技術の将来像を描くことを目指す。
プログラム
・1月19日(金)
13:30-14:10 小長谷明彦 (東京工業大学)
「分子ロボット研究の現状と倫理の必要性」
DNAや分子モーターなどの生体分子を用いてロボットを創るという研究は2012年に始まった新学術領域研究「分子ロボティクス」により大きく発展した。後継プロジェクトであるNEDO「人工筋肉プロジェクト」や科研費基盤研究では分子ロボットの医薬応用に踏み込む応用研究が始まっている。分子ロボットのような真に革新的な技術が社会に受容されるためには、技術発展だけでなく、その倫理面についても十分な議論と社会との対話が不可欠である。本講演では分子ロボットのこれまでの成果の概要に加え、2017年度より開始されたJST「分子ロボットELSI研究とリアルタイム技術アセスメント研究の共創」の構想について述べる。
14:10-14:50 戎家 美紀 (理化学研究所 生命システム研究センター)
「人工遺伝子回路で発生現象を培養細胞上に再構成する」
私達は、哺乳類培養細胞上に人工的な遺伝子回路を作ることで、発生現象を再現しようとしています。実際に作ることでこれまでの仮説を検証したり新たな発見を狙っています。具体的には、自発的な細胞分化、細胞パターン形成、同調振動、組織の変形などの再構成に挑戦しており、そういった取り組みを紹介します。
14:50-15:00 休憩
15:00-15:40 藤本 健造(北陸先端科学技術大学院大学 マテリアルサイエンス系)
「光架橋能を有するDNAを用いた分子ロボティクス的回路の可能性」
分子ロボティクスの基盤となっているDNAナノ技術 の中でも、光架橋能を有するDNAを用いることで、今までにない各種操作(鎖交換の高速化、天然には存在しないDNA構造構築など)が可能となっている。最近では、可視光域の波長で光架橋できる様になったり、細胞の中でも光架橋操作ができる様になるなど、用途範囲も広がってきている。本発表では、こういった最新の研究成果を紹介した上で、光架橋能を有するDNAを用いた分子ロボティクス的回路の可能性について議論したい。
15:40-16:20 関 新之助(電気通信大学 大学院情報理工学研究科)
「Turing Completeness of RNA Cotranscriptional Folding」
Cotranscriptional folding refers to a phenomenon in which an RNA sequence is folded upon itself while being synthesized (transcribed). This phenomenon has turned out to play an important role in self-assembly of shapes of RNAs, whose functions are mostly driven by shape. Geary, Rothemund, and Andersen have recently demonstrated an architecture of a template DNA whose RNA transcript highly likely folds into a prescribed rectangular shape at life-compatible temperature.
Using oritatami system, a novel computational model of cotranscriptional folding, we will demonstrate in this presentation how one can program cotranscriptional folding to perform an arbitrary computation by implementing an oritatami system that simulates a universal Turing machine. This provides us with an architecture of a template sequence of abstract molecules that performs a program stored in a molecule in an interpretable format. In this sense, this is a molecular stored-program computer.
This is a joint work with Cody Geary, Pierre-Etienne Meunier, and Nicolas Schabanel.
16:20-16:50 総合討論
17:30-19:30 懇親会 税込み5000円(飲み物別)
・1月20日(土)
10:00-10:40 八代 嘉美 (京都大学 iPS細胞研究所)
「社会との協調に向けた日本再生医療学会の取り組みについて」
再生医療は疾患などで失われた組織・細胞の機能を、体外で培養するなどした細胞を人工材料などと組み合わせて回復させる治療法である。これまでにない新たな治療法であるため、社会から大きな期待を受けている。一方、そうした期待を利用し、必ずしも十分な科学的根拠を持たない行為が行われ、患者が危険にさらされる可能性も少なくない。本報告では日本再生医療学会で実施している社会に対する取り組みを紹介し、アカデミアが社会に対して果たすべき責任のありかたについて考える一助としたい。
10:40-11:20 山村 雅幸 (東京工業大学 情報理工学院)
「iGEM報告および合成生物学倫理の話題」
2017年11月に開催されたiGEM2017の参加報告を行う。全世界から300チーム以上が集まった競技の結果と同時に、iGEMに併設されるワークショップや今後の動向についても紹介する。医療・産業応用志向のプロジェクト群が充実し、研究としてみてもハイレベルな結果が出ている。反面、知財や倫理関係の見当が甘い状況が続いている。実例として、東工大TokyoTechチームの活動について紹介する。また、合成生物学に代表される新しい遺伝子組換え技術の規制や標準化等の考え方についての国際的な議論についても紹介する。
11:20-12:00 花井 泰三 (九州大学)
「合成生物学による大腸菌とシアノバクテリアを用いた物質生産」
生体分子ネットワークを「眺めて解析する生物学」から、「創って解析する・利用する生物学」を目指し、2000年頃から米国で合成生物学(synthetic biology)という研究が行われている。サイエンスの面では、同定済みの相互作用する生体分子を組み合わせた人工遺伝子回路(artificial genetic circuit)を設計して、発振回路などの特定の生体内現象を再現させようとする試みがなされている。また、エンジニアリングの面では、別の生物由来の酵素遺伝子を複数組み合わせた合成代謝経路(synthetic metabolic pathway)を設計し、その生物が本来生産できない物質を大量生産させる試みが行われている。本発表では、我々の研究例をもとに、このような合成生物学に基づいた微生物(大腸菌およびシアノバクテリア)による物質生産の研究を紹介したい。
12:00-13:00 昼食
13:00-13:40 仲 隆(九州産業大学)
「細胞内シグナル伝達系の制御ネットワークによる定式化とそれを用いた制御特性の解析」
細胞の制御システムとして知られている細胞内シグナル伝達系は非線形システムであるため系統的網羅的な解析を可能にする理論が確立されていない。本講演では、酵素の活性化・不活性化のサイクル反応系を要素とし、それらが相互に制御し合う制御ネットワークによりシグナル伝達系を定式化し、系の制御特性を系統的網羅的に解析する手法を紹介する。さらに、その手法を2~4種の酵素から構成されるシグナル伝達系に適用し、反応系の制御構造と反応飽和度などのパラメータ値が、系の双安定性に及ぼす影響を解析した結果を紹介する。
13:40-14:20 中茎 隆 (九州工業大学)
「分子ロボットのための制御理論の構築を目指して」
本発表では,DNA鎖置換反応を基本演算要素とし,それらの組み合わせによって創られる回路(DNA回路)と分子ロボットへの応用に関して,発表者の研究成果も交えながら概説する。小規模なDNA回路に関しては,実験も含めた多数の成功例が報告されているが,組み合わせ回路による中・大規模DNA回路の実現には解決すべき問題が多い。本発表では,DNA回路が持つモジュール性と非線形性に起因する理論上および実装上の問題点を述べ,その解決方法について議論する。DNA回路は,DNA鎖の化学反応の連鎖系であり,シグナル分子の結合・解離反応という観点から,細胞内シグナル伝達系の動作原理と本質的に同じと考えられる。DNA回路の設計問題から見えてくるシグナル伝達系の動作原理について考察を与える。
14:20-14:30 休憩
14:30-15:10 河原 直人 (九州大学ARO次世代医療センター)
「分子ロボット技術に関する倫理綱領」
当研究会では、分子ロボット技術に関する倫理綱領の確立を目指して、1)生命・医療倫理の倫理的枠組み、2)技術者倫理、あるいは、専門職としての行動規範に係る倫理的枠組み、3)エマージング・テクノロジー(合成生物学を含む)に関する倫理的枠組み、4)その他、ナノテクノロジー、ロボティクス等の関連分野における倫理的枠組み、5)国内外の関連学協会の倫理綱領の実例から検討が重ねられてきた。
今回は、これまでの研究会で提起された論点をふまえ、「分子ロボット技術」ならではの倫理的要件について考察するとともに、当該技術分野の倫理綱領の試案を示しながら、その確立に向けた討議を展開することができればと考えている。
15:10-16:00 分子ロボット原則グループ討議(17:00まで部屋は借りてあります)